あとがき


 保育施設における乳幼児の死亡事件・事故では、「乳幼児突然死症候群(SIDS)」による「病死」と安易に診断されるなど、不問にされている事例が実に多くあります。保育者の虐待行為で死亡したことが歴然としているにもかかわらず、その真偽すら不明のままの事例も少なくありません。
 保育施設での死亡事例の場合、的確に言葉をしゃべることができない乳幼児に囲まれているだけに当事者たちが誠実に事実を説明する以外、真実が明らかになることは困難です。そのために多くの死亡事例が事実解明されることなく処理されています。
「もの言えぬ」子どもの埋もれた人権侵害の発掘は急務の課題です。
 異年齢の園児が混在するフロアーに乳児を無造作に寝かせ、他の園児が踏みつけかねない環境下での変死、寝返りできない乳児を長時間うつぶせ寝にしての放置死、泣き止まないことを理由に頭部に布団類を覆いかぶせての窒息死、園舎に鍵を閉め保育者がスポーツジムに通っていた無人下でのネグレクト死など、劣悪な環境や保育の質にかかわる死亡事例が増加しています。

 当会では1961年度から2008年度まで48年間の死亡事故240件を把握しています。85%が認可外保育施設での事例ですが、一方2001年の小泉内閣時に実施された保育の規制緩和(上限なしでの定員以上の詰め込み、保育士の非常勤化)以降、認可保育所での死亡事故が7.3倍に増加しています。
 そして、現政府がおこなう面積基準の緩和など児童福祉法最低基準の改訂により、こういった死亡事故がさらに増加すると予想されるため、このような改訂は許すことができません。

 海外に比べると劣るわが国の最低基準ですが、それでも子どもの安全と命の担保になっていたのだと思います。この種の死亡事故の根本責任は、福祉に責任を持たない国の制度・政策にあり、ここを変えない限り抜本的な改善もありえないでしょう。

 また、抜本的な改善を目ざすと同時に、無抵抗な子どもの命が理不尽な形で奪われている現状を一刻も早く改めなければなりません。この問題を社会的に明らかにし、保育に関わるすべての方々とともに子どもの人権擁護に向けた世論をつくることが大切だと思っています。
 今後なお一層の規制緩和、保育の市場化が予想される流れとなっていますが、政府・自治体のこれらの政策に抗しつつ、これ以上同じ犠牲者を絶対に増やすまいというのが、わが子を亡くした私たちの共通の願いです。

 なお、保育事故としては、異物を飲み込んだり、子ども同士が物を投げ合ったりしたための事故や、施設の不備や用具の欠陥などで生じるケースが多くみられます。ですが、本書では紙数の関係もあり、主として私たちの会が取り組んだ比較的新しい乳幼児の突然死の問題を取り上げていただき、そのような事件がなぜ発生し、どうしたら防げるかを中心に論じ、執筆していただきました。

 このたびの本書の出版にあたっては、すばらしい感性と問題意識で執筆していただいた武田さち子さんに、心から感謝申しあげます。そして、このたびの出版の企画と監修に献身的に取り組んでいただいた高見澤昭治弁護士と小山義夫副会長にお礼を申し上げます。座談会に参加していただいた大宮勇雄福島大学教授・全国保育団体連絡会会長、ならびに寺町東子弁護士にも貴重なご発言をいただき、ありがとうございました。
 最後になりますが、出版をお引き受けいただき、丁寧な本作りにご尽力いただいた「あけび書房」に深謝申し上げるとともに、安全で豊かな保育を実現するために、本書が少しでも多くの皆さまに読まれることを心から願っております。

    2010年7月  赤ちゃんの急死を考える会会長・櫛毛冨久美