まえがきに代えて
     ―「メイドインジャパン」を平和産業の代名詞に

 リオデジャネイロオリンピックが連日報道される2016年夏。同じ地球上では戦禍が止むことはない。かつて「オリンピック休戦」というものが提案されたことがあったが、今はそんな声さえ聞こえてこない。
 8月15日、イエメン北西部ハッジャ州でサウジアラビア主導の連合軍による空爆があった。国境なき医師団(MSF)によると、病院の一部が破壊され、少なくとも11人が死亡、19人が負傷したという。13日には北部サアダ州における空爆によって子ども10人が死亡したばかりだった。これらは紛れもない戦争犯罪である。
 イエメンでクラスター爆弾の使用を含む無差別空爆を繰り返すサウジアラビアに、米国や英国などは未だに公然と武器輸出を続けている。8月9日、米国務省がサウジアラビアに対して、エーブラムズ戦車130台など総額11億5000万ドル(約1178億円)の武器売却を承認したことが明らかになった。武器輸出大国はまさしく紛争に加担し、それを助長している。武器輸出は間違いなく、中東の悲惨な紛争に一向に終息が見通せない要因の一つだろう。そして今、憲法9条を一字一句変えていない日本が、この武器輸出レースに参入しつつある。

 本書の企画は、2016年2月7日に武器輸出反対ネットワーク(NAJAT)が開催した発足集会をきっかけとして動き出した。当日発言した4人は異なるポジションから、「死の商人国家」への仲間入りをめざす日本に警鐘を鳴らした。研究者、元官僚、ジャーナリスト、市民活動家。本書では、その4人がそれぞれの立ち位置から見える日本の姿を報告している。
  残念ながらマスメディアの多くは、進行する武器輸出や軍学共同の事実を伝えきれていない。読者はおそらく「ここまで来ているのか」と驚かれることだろう。

 だが、一方で、必ずしも武器輸出や軍学共同が順調に進んでいるわけでないことにも気づかれるだろうと思う。その原因は、「死の商人国家」「武器輸出大国」になることを拒否する市民が、勇気をもって声をあげているからである。国のかたちが強引に変えられようとするとき、議会や政党やメディアにそれを阻む力が欠けているとき、最後の砦となるのは一人ひとりの市民に他ならない。「軍産学複合体」という巨大な権力を相手に、一人ひとりは微力であっても、一歩も退かない市民の努力こそが最後の希望となる。本書では、その希望の一端も感じていただけるのではないだろうか。
  2007年に放映された私の大好きなNHKドラマ『ハゲタカ』の中で、大手電機メーカーの光学レンズ部門の米軍需ファンドへの売却が、従業員による独立(EBO)という起死回生の手段によってぎりぎりのところで阻止される。軍需ファンドが欲しがったベテラン特級技能士は、EBOに向けて、働く仲間にこう問いかける。
「われわれ技術者も、技術が何のために使われているのか、責任を持って感じ続けなきゃいけないと思う」

 今、「メイドインジャパン」を誇ってきた日本の電機メーカーなどの多くは、世界の市場競争の中で後退を強いられている。その苦境を、武器輸出という禁じ手に踏み込むことで打開しようとすることがあってはならない。
 人を殺すための技術ではなく、人を生かすための技術を。人を殺して儲ける経済ではなく、人が共に生きるための経済を。「メイドインジャパン」を平和産業の代名詞に。本書のメッセージが、迷いの中にある大企業の幹部に、その下請けとして日本のものつくりを支えてきた職人の方々に、さらには研究者の方々にも届くことを願っている。

      2016年8月     武器輸出反対ネットワーク(NAJAT)代表・杉原浩司