訳者まえがき

 本書は2015年に出版された『フェミニズム理論 周辺から中心へ』3版を翻訳したものです。初版は1984年ですから、上梓されてから33年ということになります。
著名なフェミニストというだけでなく、教師であり、アメリカを代表する思想家であり、文明批評家としての多彩な顔を持つベル・フックスの30冊を超える著作の中でも本書は彼女の代表作とされています。

 今回、出版に際して、訳者の判断で、章タイトルのみであった全ての章に小見出しをつけ、かなりの改行を加えました。古典ともいうべき文献に手を入れる難しい作業に何度もくじけそうになりながら、最後までやり通すことができたのは何としても若い人に読んでもらいたいという気持ちからです。願いどおり、本書は小見出しや改行に慣れた日本人にもなじみやすい仕上がりになったのではないかと思います。
 この本を最初に訳したのは18年前、高校3年生だった娘に読ませたかったからです。現在、娘は36歳、二児の母親として子育てに忙しい毎日を送っています。当時、自分でプリントアウトした冊子に添付したまえがき「高校生のあなたに」という文章はネット上で読むことができます。興味のある方は検索してみてください。(あけび書房ホームページの本書欄ご参照)
 また、出版のために共訳者の毛塚さんと本書を訳し直してみて改めて思ったのは、執筆されて33年経っているのにもかかわらず、その内容がまるで古びていないということです。目線がきわめて低いこと、一見容赦ないように見えて実は優しいことなど、ベル・フックスの良さはたくさんありますが、彼女の本当にすごいところは人間にとって何が普遍的な問題なのかを見抜く力を持っていることなのです。

 今、フェミニズムにある種の偏見があることは否めない事実です。偏見ならまだしも、若い人たちにとって、フェミニズムはそういえば昔そんなこともあったぐらいの認識しかないというのが本当のところでしょう。そのためにフェミニズムについて学ぶ機会もなく、自分の抱えている問題がフェミニズムの問題であることに気づいていないことも少なくありません。
 フェミニズムを学びたいという人にとって、現代フェミニズム思想の教本の一冊として位置づけられている本書は十分に答えてくれるものだと思います。ただ、わたしは、何だか生きづらさを感じている人、自分のパートナーや家族との関係がうまくいかないという人、女性であっても男性であっても構いません、そういう人にこそ本書を手に取ってほしいのです。
 些細な問題だと思っていたことが実は深刻なフェミニズムの問題だったということもあるからです。
かつて、女性として、妻として、そして母としての「あるべき」生き方にがんじがらめになったわたしが救われたように、あなたの抱えている問題を解き明かす糸口が、もしかしてこの本のなかに見つかるかもしれません。
 ご一読いただければ幸いです。

                          2017年9月     本書共訳者 野ア佐和