はじめに

 安全保障関連法(安保法制)が施行され、3年が過ぎました。
「日本が戦争に巻き込まれる!」
 当時、国会の激しい論戦をみて、そんな不安を抱いた人もいたのではないでしょうか。でも、戦争は起きていません。
「なんだ、取り越し苦労だったのか」と安心するのは、まだ早いと思います。
 今は、たまたま米国が戦争をしていないから、日本も静かなのだと考えれば、これまで通りの生活ができている理由がわかります。

 日本政府は米国がアフガニスタン攻撃を始めたとき、わざわざ特別措置法(特措法)という期限をさだめた法律をつくって、海上自衛隊が戦場へ向かう米艦艇に燃料を洋上補給することで、米国の戦争を支援しました。
 イラク戦争の際にも、やはり特措法をつくり、戦火くすぶるイラクに陸上自衛隊を派遣し、隣国のクウェートに航空自衛隊を派遣したのです。
 小泉純一郎首相が世界に先駆けて、「米国の戦争を支持する」と表明したところ、それならば「陸上自衛隊を派遣せよ」と米国から求められ、大急ぎで準備を整えたのです。
 この2つの戦争で特措法までつくって対米支援をしたのが、日本なのです。
 安保法制は、事態にあわせてつくり、期限が来れば効力が消えてしまう特措法とは違います。恒久法ですから、いつでも、いつまでも使うことができるのです。
 米国がいずこかの地域や国で戦争を始め、日本に応援を求めてきたときに、ただちに自衛隊を送り込むことができるのです。
 安倍政権より前には「憲法違反」とされ、政府が禁じてきた集団的自衛権の行使や戦闘地域での米軍支援は、いずれも実施可能となっています。米国が再び戦争を始めたとき、米軍の側について自衛隊が戦闘に参加したり、米軍の下働きをしたりすることが簡単にできてしまうのです。

 米国が戦争をしていないからといって、安保法制は休眠しているわけではありません。施行から8カ月後、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に参加している陸上自衛隊に「駆け付け警護」が命じられました。
 武装集団に襲われた日本人などを救出する活動です。武装集団が「国に準じる組織」であった場合、「国の組織」である自衛隊と撃ち合えば、憲法9条に違反するとして「実施できない」とされた「駆け付け警護」でしたが、安倍政権が「自衛隊の前に国に準じる組織は現れない」との趣旨の閣議決定をしました。
 現れるか否かの現実はどうあれ、「現れない」ことに決めたのです。理不尽な話ですが、これを受けて、安保法制に「駆け付け警護」が取り入れられ、「実施できる」と180度変わりました。
 奇妙なことに、安倍政権は「駆け付け警護」を命じてから、わずか3カ月後に南スーダンPKOの終了を命じています。  野党に「隊員に死傷者が出た場合、責任をとるか」と詰め寄られ、「もとよりその覚悟でございます」と安倍首相は答弁し、自衛隊に死傷者が出たとすれば、首相を辞めなければならなくなりました。
 そのあと、国有地を常識外れの価格で払い下げた森友学園問題が浮上。首相は「私や(妻の)昭恵がかかわっているとわかったならば、総理大臣はもちろん国会議員もやめる」とここでも首相を辞めることを約束します。
 首相は周囲のごく親しい人とだけ相談して、南スーダンPKOから撤収することを決めました。これで首相を辞めなければならない条件のひとつは消えました。自衛隊の「私物化」が疑われますが、「安倍一強」ですから何でもありなのです。
 安保法制の適用第2号となったのが米軍防護でした。北朝鮮情勢にからみ、2017年は米艦艇、米航空機の自衛隊による防護が2件ありました。
 2018年は南北首脳会談、米朝首脳会談が相次いで開かれ、朝鮮半島の緊張緩和が始まったにもかかわらず、米軍防護は16件と前年の8倍に増えています。
 防護の中身について、政府は国民にまったく説明しません。米軍防護は国家安全保障会議に報告され、のちに件数だけが公表されているのですが、国家安全保障会議で得た結論は「特定秘密」となっているので公表できないのです。
 これを決めたのは、国家安全保障会議の常任メンバーである首相、官房長官、外務相、防衛相の4人。自らに報告するルールを自らが定めたのですから、自作自演です。おかしなルールによって、実施した米軍防護の中身は永遠に公表されないことになってしまいました。
 軍事に傾斜を強めた結果、自衛隊の活動や武器を定めた日本防衛の指針「防衛計画の大綱」(防衛大綱)がつじつまが合わなくなり、2019年4月から新大綱に改定されました。
 安保法制を反映したことから、攻撃型の武器体系への移行が明記され、もはや「専守防衛」は風前の灯火です。憲法の縛りなどないも同然です。米軍とのさらなる一体化も打ち出されました。

 攻撃型武器の多くは米政府から購入するのです。米政府から購入する武器は過去、毎年500億円前後だったにもかかわらず、安倍政権になってから1000億円、4000億円と増え続け、2019年度はついに7000億円を超えました。
 防衛省はローン地獄に陥り、企業に「支払いを待ってくれ」と頭を下げる始末。企業が断ると、5年の分割払いを10年に延長する法律をつくり、引き続き高額な武器を米国から大量購入できる仕組みをつくり上げたのです。法律ですから、国会も防衛省が借金地獄に落ちることを認めたことになります。
 日本は三権分立のはずですが、互いに牽制するのではなく、首相官邸という行政府が立法府である国会を支配しているかのようです。
 政府は武器を大量購入する一方で社会保障費を削減し、また、大学に入った若者が奨学金の返済で苦しんでいる様子をみても抜本的な対策を打ち出そうとはしません。
 待機児童問題が表面化して何年もたちます。戦闘機を1機買うのをやめれば、認可保育所が100カ所以上もつくれるのに、政府は武器購入をやめようとはしません。
 いったい誰のために政治をしているのか。  市民の声には耳をふさぎ、米国のささやき声には耳をそばだてる。「米国第一」をスローガンに掲げ、実際には自身の再選をはかるトランプ米大統領、彼と日本の政治家はどこが違うのでしょうか。

 本書は安保法制の施行による自衛隊の変化、2018年に閣議決定され、2019年4月から実施の「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」による自衛隊の「軍隊化」などを具体的な事例をもとに説明しています。
 軍事は絵空事ではありません。もはや憲法改正を待つまでもなく、「戦争ができる国」になった日本。本書を読めば、憲法改正の阻止だけを訴えていたのでは、平和国家は取り戻せないことがおわかりいただけると思います。
 議論のたたき台として活用していただければ幸いです。

2019年4月24日   半田 滋